シドクリ通信第83号
【子どもの貧困】
前号では“子どものうつ病”について書きましたので、本号では“子どもの貧困”について書いてみたいと思います。
近年、子どもをめぐる生活環境が変化し、わが国は7人に1人の子どもが貧困状態にあると言われています。貧困というと、私たちはアフリカや北朝鮮の飢餓に瀕した人々を想像し、日本のどこが貧困なのかと思いますが、精神科臨床の場ではしばしば貧困を感じる場面に遭遇するのです。
例えば給食費が払えない、就学旅行に行けない、奨学金をもらって学校に通っている、家計を支えるためのアルバイトをしている、親の帰りが遅いので子どもたちだけで夕食を食べているなどの苦悩をしばしば耳にします。生活保護法指定医療機関の当院としては、患者さんがいかなる経済状態にあろうとも、公平に診療する義務がありますが、生活困窮者は問題が多岐に亘ることが多いので、それだけ手間がかかることになります。
生活困窮者は親も子どもも抑うつ傾向が強いことが知られています。困窮者の子どもはむし歯の数が多く、いじめられた体験も多いと言われています。困窮者は子どもを虐待することが多く、特に自分が親に虐待された経験を持つ保護者は、自分の子どもを虐待する確率が高いことが知られています。まさに虐待の連鎖です。よって、子どもの虐待への対応は、親への支援、ひいては家族丸ごとのケアが必要になってきます。
このような最近の状況にあって、臨床医の私にできることは何なのでしょうか?それは、子どもたちが置かれた生活環境に関心を払い続けること、診察室では躾と虐待の境界を慎重に見極めること、気になることがあったら地域の関係機関と連携し、情報を共有すること、学校からお声が掛かればなるべく足を運び、最近の学校・子どもの雰囲気を味わってくることなどが上げられると思います。
最後に、役所の担当者や学校の先生は数年ごとに転勤していきますが、私はクリニックでずっと診察しています。そのため、役所の担当者も知らないような昔のことを知っていたりします。クライアントさんから口止めされている内容については、外には話さない(話せない)こともあります。子どもと言っても、そのうちに大人になりますので、結局は家族ぐるみの長いつきあいになっていきます。
今まで精神医学は貧困の問題を避けてきました。医療側が頑張ったところで問題は解決できないし、それは本来、政治や行政の仕事です。しかし、最近はこの問題に目を向けずして医療ができなくなってきました。このような時代を憂いつつ、今後も診療を続けていきたいと思います。
【子ども食堂】
最近、メディアに取り上げらえることが多くなった“子ども食堂”は、孤立や貧困に苦しんでいる子どもの居場所として注目されています。子ども食堂とは子どもやその親、および地域の人々に無料または安価で栄養のある食事や暖かな団らんを提供する場です。孤食の解消や、子どもと大人たちとの繋がりや、地域のコミュニティを育てる手段として、日本各地で同様な運動が急増しているようです。
訪れたことはありませんが、高田馬場にもあるようです。
【産業医の仕事】
産業医とは企業などで労働者の健康管理を行う医師のことを指します。労働安全衛生法によれば、常時50人以上の労働者を擁する事業所には1人以上の産業医の選任が義務づけられ、1000人以上の労働者を擁する事業所には専属の産業医を置くことが義務づけられています。というわけですから、皆さんがお勤めの会社でも産業医が選任されているかも知れません。
産業医の任務としては健康診断、長時間労働者の面接指導、ストレスチェックの実施、職場の衛生委員会への出席、職場巡視などが規定されています。
私は昨年、高田馬場にある2つの会社と産業医契約を結びました。2つの会社の業種はまったく異なりますが、どちらも50人規模に成長してきた会社で、法律に従って初めて産業医を選任することにしたそうです。
産業医は臨床医とは異なり、原則として病気の診断や治療は行いません。例えば病気で休職していた社員さんが良くなって、主治医から復職可の診断書を発行されたとします。産業医はこの社員さんと面接し、本来の健康状態に回復したかどうか、職場に戻してよいかどうか、戻す場合にどのような注意が必要かなどを判断するのです。また、職場の環境改善に関する意見を述べることも大切な任務になります。
産業医学といえばかつては水俣病やイタイイタイ病のような公害病の研究が重要な仕事でした。しかし、現在、都会の若い社員が多い第三次産業の会社では、労働者のメンタルヘルスや生活習慣病への対応が重要なテーマになりつつあります。
働きやすい職場環境はすべての労働者が希望するところでしょう。たまたまご縁があって契約することになった会社ですが、会社にも労働者にも信頼される産業医でありたいと思っています。
【お知らせ】
・保険証は毎月提示してください。
・保険証に変更があった場合は、すみやかに受付までお知らせください。
・自立支援医療をご利用の方は、受診の都度、受給者証を提示してください。
・処方箋の発行を受けたら処方内容に間違いがないかを確認し、早めに調剤薬局に提出してください。処方箋の有効期限は発行日を含めて4日間です。この間に提出ができない方は、処方箋の有効期限を延ばしますので、受付に申し出てください。